>寒川旭

>  日本の歴史は地震の歴史と言っても過言ではない。時代の大きな変わり目は地震が後押しした側面がある。100年余りの間隔で繰り返す南海トラフの地震でいえば、宝永地震(1707年)は江戸幕府の衰退、安政東海、安政南海地震(1854年)は幕府の崩壊、昭和の東南海地震(1944年)は敗戦直前の日本を消沈させた。このほか、関東大震災(1923年)で日本経済は大打撃を受け、「大陸進出やむなし」との風潮をつくったといえる。  古代まで振り返ると、東日本大震災をもたらした巨大地震と最も似ているのが869年の貞観地震だ。菅原道真らが編さんした歴史書「日本三代実録」には、仙台平野北部の多賀城下に津波が押し寄せたことが記されていた。 古い史料はあてにならないと思っていないだろうか。「日本三代実録」を含む奈良・平安時代に編さんされた六つの官撰(かんせん)の歴史書(六国史)は、当時の最高の頭脳が集まってつくられた。地震の記録は非常に正確だ。貞観地震以外にも9世紀の日本では各地で地震が続いた。現在の日本列島の地震活動と共通点が多く、この時期をよく知ることは次に起きる地震で多くの命を救うことにつながるだろう。  たまたま地震が少ない時代に高度成長期を迎え、自然を征服してしまうような発想で国づくりが進められた。埋め立て地が増え、丘陵を改変して、地盤の悪い場所に移り住んだ。  もう一度謙虚に自然を理解し、共存する方法を考えるべきではないだろうか。日本はいつの時代も地震に悩まされ、その度に残された教訓がある。歴史からそれらを学び、今後の備えを充実させなければいけない。